■ in no time
玄関に入って靴を脱いだ途端に、青島が両手で室井の頬を掴み引き寄せてきた。
室井は急なことで驚きつつも、青島の好きにさせた。
唇が触れ、何度も角度を変えて重ねられる。
唇を合わせたまま、青島に押されるような形で壁に寄り掛かった。
唇を割って侵入してくる舌に、キスで終わらないような青島の欲情を感じる。
珍しいな、と思う。
青島に誘われること自体は珍しくないが、玄関入ってすぐに仕掛けてくるなんてことは初めてだった。
口内で蠢く舌や唇にかかる吐息は、既に行為の最中のような熱を帯びていて、青島に余裕がないことが分かる。
背中にぞくりとしたものを覚えながら、室井は鞄を放り出し、青島の背を抱いた。
「どうした…?」
キスの合間に囁くと、青島は覗き込むように室井の目を見つめた。
見慣れた青島の顔がいつもと少し違って見えるのは、青島が欲情しているせいか、それともその青島に室井が煽られているからか。
「別に…ちょっと我慢できないだけ…」
そう言って、再び唇を重ねてくる。
素直に我慢できないと言う青島は可愛いくてたまらないものがあるが、ここは玄関だ。
啄むように触れてくる唇にキスを返しながら、室井は宥めるように青島の背中を撫ぜた。
「分かったから、ベッドに行こう」
場所を変えようという室井の言葉を聞いているのかいないのか、青島はキスを止めようとしない。
「こら、青島…」
咎めはしたものの口調に力は無く、それどころか甘ささえ含んでいるから、青島が止めるはずがない。
愛しげにキスを繰り返し、室井のネクタイを緩め、シャツのボタンを外して素肌に触れてくる。
こうなると、室井も止めづらい。
こんなところでしなくてもと頭の片隅で思ったが、思っただけだった。
無意識に青島の腰を強く抱いて引き寄せる。
身体を密着させるだけで、青島は吐息を漏らした。
「室井さん…」
熱っぽく囁き、唇を重ねてくる。
室井は青島の後頭部に手を回し、引き寄せた。
思う様舌を絡ませ夢中で吸い上げると、堪らなくなったのか、青島が体重をかけてきた。
押し倒そうとする青島に、室井は逆らわなかった。
それが悪かった。
場所は狭い廊下である。
勢いをつけて揉み合うように転がったら、後頭部が壁に激突した。
ゴンッと鈍い大きな音が響き、室井の視界が一瞬白く飛んだ。
「…っ」
言葉もなく頭を抱えて呻いた室井に、青島は驚いて身体を離した。
「わあっ、ごめんなさい、がっつき過ぎたっ」
どこまでも素直な青島に、痛みに顔を歪めたまま、室井は吹き出してしまった。
それに気付かなかったのか、青島は心配顔で室井を覗き込んでくる。
「大丈夫ですか?たんこぶできてない?」
「い、いや、大丈夫だ…」
室井は平気だと言ったが、青島は室井の後頭部に手を回し、労わるようにそっと撫ぜてくる。
まるで子供をあやすようになでなでされては気恥ずかしいが、本気で心配しているらしい青島に文句も言えない。
「こぶにはなってないみたいだけど、冷やした方がいいかな」
青島に撫でられたまま、室井は苦笑した。
「大丈夫だ、大したことはない」
まだ鈍い痛みはあるが、そのうち感じなくなるだろう。
室井が気にするなと言うと、青島は軽くキスをくれた。
だが、先程のような情熱的な触れ合いはなく、すぐに立ち上がり、室井の上からどけた。
「青島?」
不思議そうな室井にちょっと笑って手を差し延べてくる。
握り変えした手を引っ張られて起き上がると、「ベッドに行きましょう」と誘われた。
室井が後頭部を打ったことで、青島の目が覚めてしまったらしい。
こうなったらこうなったで惜しいことをした気がするのは何故だろうか。
だが、誘われた先がベッドであれば、室井に文句はなかった。
青島に煽られた室井も既にその気で、今更止められてもらっては困るのだ。
青島は室井の手をひいて、寝室に向かった。
ドアを開き、室井を中に促しながら、神妙な顔つきで言う。
「落ち着いてやりましょうね」
これからしようとしていることは、落ち着いてするようなものでもない。
青島の妙な言い草に笑いだしそうになりながら、室井は肩を竦めた。
「自信はないな」
「ん?」
「青島としていて落ち着いていたことなんか、一度もないぞ」
青島は室井の顔を凝視し瞬きを繰り返していたが、やがて小さく笑った。
「そういや、俺もそうでした」
青島の両手が頬に触れるのと同時に、顔も近くなる。
やはり今夜の青島は性急なのかもしれない。
そう思ったが、もう室井にも戸惑いはなかった。
欲しがる青島を、ただ愛しく思うだけ。
唇が触れるのを待たずに、室井は後ろ手に寝室のドアを閉めた。
END
2011.9.18
あとがき
たまには切羽詰まってる青島君を書きたいなーと思って書いた小話でした。
そして、室井さんの頭をなでなでする青島君が書きたいなーと。
時々、良く分からない欲求にかられて困っています(笑)
お粗末様でした!
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